「椎の木」Vol59 2005年春号出詠歌
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ひ烏賊とふ小さき体に目も口もひととおりあり ひたすら捌く

このしろは緻密なる魚わが舌に向かひくるなり酢の香を立てて

マンビキと太く書かれしひと盛りの半身の魚や回遊の果て

ニンジンを切ればたちまちうす赤き模様かすかに指に沁みけり

電灯に透けゐるみどりのカメムシの小さき貌には小さき角あり

洋梨の淡き琥珀のコンポート白磁の皿に沈むけだるさ

ぽつきりと折れし牛蒡の断面の色白くして土の香のする

琉球の極月ゆるりと傾きてなほ生暖かき街の往来

渾身のかぎりに揺るる刺草かただ灰白の一色のなか

あけて尚まだうすぐらき冬の朝白き山茶花まず現るる

冬の陽は欠落しつつ光を射す万両珠実ひとふさの上

雪被る紅き珠実の万両を触ればかすか温もりのあり

地の面をしきり啄ばむきびたきの喉あかくして我に近づく

オール漕ぐ上腕の影たくましく江津のみづうみ春が湧き立つ

たちまちに眩き海の貌をなす小鍋に茹でし若布さみどり

「椎の木」に入会、初めて出詠した15首です。

© 大畑靖夫

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