
ひ烏賊とふ小さき体に目も口もひととおりあり ひたすら捌く
このしろは緻密なる魚わが舌に向かひくるなり酢の香を立てて
マンビキと太く書かれしひと盛りの半身の魚や回遊の果て
ニンジンを切ればたちまちうす赤き模様かすかに指に沁みけり
電灯に透けゐるみどりのカメムシの小さき貌には小さき角あり
洋梨の淡き琥珀のコンポート白磁の皿に沈むけだるさ
ぽつきりと折れし牛蒡の断面の色白くして土の香のする
琉球の極月ゆるりと傾きてなほ生暖かき街の往来
渾身のかぎりに揺るる刺草かただ灰白の一色のなか
あけて尚まだうすぐらき冬の朝白き山茶花まず現るる
冬の陽は欠落しつつ光を射す万両珠実ひとふさの上
雪被る紅き珠実の万両を触ればかすか温もりのあり
地の面をしきり啄ばむきびたきの喉あかくして我に近づく
オール漕ぐ上腕の影たくましく江津のみづうみ春が湧き立つ
たちまちに眩き海の貌をなす小鍋に茹でし若布さみどり
「椎の木」に入会、初めて出詠した15首です。
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